『相棒 season23』第16話「花は咲く場所を選ばない」は、いかにも『相棒』らしい一話だった。
画商が殺害され、現場に残された血液から、日本画の巨匠・虻川徹の娘である希美が容疑者として浮上する。
ところが捜査を進めるうちに、希美と同じ美大に通う倉田ひかり、二人が生まれた助産院、そして父・虻川徹の死までつながっていく。
複数の事情が絡み合う事件ではあるが、最後に残ったのは殺人のトリックよりも、「才能は誰のものなのか」という話だったように思う。
画家の娘だから評価されたのか
希美は、日本画の巨匠・虻川徹の娘として育った。
自身も画家を目指し、周囲から一定の評価を受けている。
一方のひかりも美大で絵を描いているが、置かれた環境はまったく違う。
事件を調べるうちに明らかになるのが、二人が出生時に取り違えられていたという事実である。つまり、虻川徹の実の娘は希美ではなく、ひかりだった。
ここから話が急に面白くなる。
もし有名画家の実の娘だと分かった途端、その人の絵まで価値が上がるのだとしたら、それまで絵そのものを見ていたのかという疑問が出てくる。
今回の事件では、まさにそこにつけ込もうとする人間が現れる。
血筋が分かった途端に変わる「価値」
画商の星は、ひかりが虻川徹の実の娘だと知ると、彼女の絵を集め始める。
才能を新しく発見したわけではない。
絵が突然うまくなったわけでもない。
ただ、「巨匠の実の娘」という肩書きが加わっただけ。
芸術の世界には、作者の経歴や希少性も含めて作品の価値が決まる部分がある。
とはいえ、昨日まで大して注目していなかった絵が、血筋一つ判明しただけで高値になるというのは、かなり皮肉だ。
絵を見ているようで、実際には作者の名前を見ている。
今回の話には、そんな美術市場へのちょっとした意地悪さも感じた。
「本当の娘」はどちらなのか
一方で、希美とひかり本人たちは、出生の秘密を知っても、それを公表しようとはしなかった。
血のつながりだけを見れば、育てられた家庭は間違っていたことになる。
しかし、何十年も親子として過ごしてきた時間まで間違いになるわけではない。
生物学上の親子と、生活の中で作られた親子。
どちらか一方だけが本物という話ではない。
この辺りは、『相棒』が時折扱う「制度上の事実と、人間の感情は必ずしも一致しない」という題材にもつながっているように思う。
「花は咲く場所を選ばない」というタイトル
今回のタイトルは、そのまま二人の画家を表している。
どの家庭で育ったのか。
誰の娘なのか。
どんな肩書きを持っているのか。
本人には選べないことばかりである。
それでも、希美は希美として絵を描き、ひかりはひかりとして絵を描いてきた。
花が咲いた場所によって、その花自体が別物になるわけではない。
才能も同じなのだろう。
「巨匠の娘だから価値がある」という周囲の見方とは正反対に、作品そのものは血筋とは無関係に存在している。
だからこそ、「花は咲く場所を選ばない」というタイトルが最後に効いてくる。
犯人の動機にも血筋への執着があった
画商の星を殺したのは、虻川徹の熱烈なファンだった加賀さゆりだった。
彼女は、ひかりが虻川の実の娘であり、希美がそうではないと知る。
そして、それまで「虻川の娘だから」という理由で希美の絵を買っていた自分が騙されたと感じ、怒りを爆発させた。
しかし、ここにも今回のテーマがそのまま表れている。
希美の絵は何も変わっていない。
変わったのは、見る側が知った情報だけ。
血筋というラベルを剥がした瞬間、それまで好きだった作品まで偽物に見えてしまう。
結局、彼女が愛していたのは絵そのものだったのか、それとも「巨匠の娘が描いた絵」という物語だったのか。
そこはなかなか辛辣だった。
最後は右京さんと小手鞠さんの大人な会話
事件が解決した後、一番印象に残ったのは「こてまり」での右京さんと小手鞠さんのやり取りだった。
なぜ小手鞠さんは、右京さんを菜の花畑へ誘ったのか。
右京さんはいつもの調子で理由を推理する。
小手鞠さんはそれを聞いて「半分正解」とだけ答え、残り半分については教えない。
当然、細かいことが気になる右京さんは放っておけない。
事件の謎はきれいに解いたのに、小手鞠さんの心だけは完全には読めない。
この距離感が二人らしくていい。
すべてを言葉にしない小手鞠さんと、どうしても答えを知りたい右京さん。
殺人事件のあとを、こんな穏やかなやり取りで締めるところまで含めて、「いつもの『相棒』」という感じの回だった。
まとめ|どこで育っても、その人はその人である
『相棒 season23』第16話は、画商殺害事件から出生時の取り違えへと話が広がりながら、最終的には血筋と才能の関係を描いた一話だった。
希美とひかりは、どちらの家庭で育っていたとしても、それぞれ自分の絵を描いてきた。
変わったのは二人ではなく、秘密を知った周囲の見方である。
「花は咲く場所を選ばない」。
少しきれいすぎる言葉ではあるが、今回の物語にはよく似合っていた。
そして最後に、右京さんでも解けない小手鞠さんの「残り半分」を置いて終わる。
こういう余白まで含めて、安心して見られる『相棒』らしい一話だったと思う。
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▶ 【相棒23】第15話感想|佐野史郎だから成立した、現実と妄想を行き来する「キャスリング」
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