『大追跡 Season2』第3話では、公園でホームレスの男性が死亡し、第一発見者の小木と、防犯カメラに映った宇田川が容疑者として浮上する。
しかし、SNSでは警察の発表を待つことなく、小木の名前や住所が拡散され、宇田川まで犯人扱い。ネットによる無責任な特定が問題として描かれる一方で、警察もまた、投稿や目の前の状況に引っ張られながら、2人の容疑者の間を行き来していた。
そして最後に判明したのはそもそも殺人事件ではなく、走行中のダンプカーから落ちたコンクリート片による事故というオチ。
ネットを疑いながらネットに振り回される警察。そして、3話続けて見えてきた「容疑者は二人、しかしどちらでもない」という事件構成。今回は、そのあたりを軽くつっこみながら振り返っていこうと思う。
ネットを疑いながらネットに振り回される警察
第3話では、事件の捜査と同時に、SNS上でも犯人探しが始まった。
第一発見者が現場作業員であることが拡散されると、小木はたちまち犯人候補にされ、名前や住所、顔写真まで公開されてしまう。さらに、防犯カメラに映っていた宇田川も特定され、自宅には大勢の人間が押しかけた。
確かな証拠がないまま誰かを犯人と決めつけ、正義の名目で私生活へ踏み込んでいく。ネットの危うさを描こうとしていることは分かりやすい。
ただし、冷静であるべき警察も、それほどネットと違う動きをしていなかった。
八重樫は、小木が第一発見者だと分かるとすぐに疑い、防犯カメラから別の男が見つかれば、今度はそちらを追うよう命じる。その後も、小木と宇田川のどちらが犯人なのかという前提から、なかなか抜け出せなかった。
しかも、捜査の途中からはSNSに投稿された情報そのものが、警察の判断材料になっていく。ネットの特定を危険視しながら、その情報によって捜査側も揺さぶられていたのである。
もちろん、警察は証拠を確認し、最終的には誤りを修正する。しかし今回は、ネットだけが思い込みで暴走し、警察だけが冷静に真実へ近づいたという話ではない。
ネットも警察も、「誰かが石原を殺した」という前提を疑わず、存在しない犯人を探し続けていた。違っていたのは、拡散する速度と、途中で立ち止まれるかどうかだったのかもしれない。
SNSにいないだけで幽霊扱いされる男
防犯カメラに映った黒いキャップの男について、SSBCは顔認証をかけたものの、SNS上に該当する人物を見つけられなかった。
すると、まるで社会に記録のない幽霊でも現れたかのような空気になる。
しかし、SNSを利用していない人間もいれば、顔写真を公開していない人間もいる。登録名が本名とは限らず、そもそも顔認証で簡単に見つかる人ばかりではない。SNS上に存在しないことと、現実に身元が分からないことは同じではないはず。
それでもSSBCは、なぜか警察のデータベースより先にSNS上の写真を探し、見つからなければ「何者なのか」と警戒を強めていく。デジタル捜査を扱うドラマだからこそ、ネット上に痕跡がない人物が、必要以上に謎めいて見えるのだろう。
もっとも、今回の男は後に宇田川謙介だと特定された。特別な方法で身元を隠していたわけでもなく、単にSNSの顔認証では見つからなかっただけである。
ネットにいないだけで正体不明になれるなら、SNSをほとんど使わない人間は、この世界ではかなりの強キャラになれそうだ。
ネットの特定より警察の見切り発車も早い
SNSでは小木が第一発見者だというだけで犯人候補にされ、宇田川も防犯カメラに映っていたという理由から特定された。
しかし、見切り発車の速さでは警察も負けていない。
八重樫は小木が遺体の第一発見者だと分かると、すぐに「一番怪しい」と判断した。コンクリート片から小木の指紋が出れば疑いはさらに強まり、今度は防犯カメラに映った男が見つかると、あっさりそちらへ捜査の軸を移している。
もちろん、警察は疑わしい人物を調べるのが仕事である。問題は、確認する前から毎回かなり犯人寄りに扱ってしまうことだ。
小木には明確な動機がなく、宇田川も現場近くを通っただけだった。それでも2人は、真相が分かるまで順番に「ほぼ犯人」の席へ座らされていく。
ネットでは断片的な情報から、犯人を決めつける危険性が描かれた。一方の警察も、指紋や防犯カメラという一見もっともらしい材料を前にすると、かなり素早く結論へ走っている。
情報の出どころは違っても、先に答えを決め、その後から材料を当てはめていく点では、両者は意外とよく似ていた。
ネットの特定班を批判する前に、まず八重樫の初動にも、ほんの少しだけブレーキを付けたほうがよさそうな気がする。
3話続けて始まった容疑者2択クイズ
Season2はまだ第3話だが、事件の組み立てには早くも共通する型が見えてきた。
第1話では、レッドヘルへの復讐を考えていた寺内と、実際に殺人を重ねていた和久井が登場した。第2話では、結婚詐欺師の田中太郎と、被害者との接点を隠していた大村和美が犯人候補として並べられた。そして第3話では、第一発見者の小木と、防犯カメラに映った宇田川である。
毎回、まず一人目が怪しまれ、続いてもう一人の容疑者が浮上する。視聴者はその二人のどちらが犯人なのかを考えることになるが、最終的には提示された2択そのものが外れている。
第1話は2人が別々に事件へ関わり、第2話の犯人は2人を容疑者に仕立てた奈良岡だった。第3話に至っては、第3の犯人すら存在せず、そもそも殺人事件ではなかった。
つまり、見せ方は少しずつ違っても、基本は「容疑者を二人並べてから、別の答えを出す」という構成になっている。
もちろん、刑事ドラマでは容疑者が途中で入れ替わること自体は珍しくない。『大追跡』の場合は、防犯カメラやデジタル捜査によって新たな人物が浮かび、そのたびに捜査が大きく方向転換するところが見せ場なのだろう。
ただ、3話続くと視聴者側にも学習が起きる。2人目の容疑者が登場した時点で、「今回もこの2人ではないのでは」と先回りしてしまうのである。
次回こそ素直な2択になるのか。それとも3人目が現れるのか。事件より先に、構成の癖を大追跡する段階へ入りつつある。
そもそも殺人事件ではなかった
小木でも宇田川でもない第3の人物がいる。そう考え始めたところで、さらに大きく前提がひっくり返った。
石原は誰かに殺されたのではなく、橋を走っていたダンプカーから落下したコンクリート片が頭に当たり、死亡していたのである。
防犯カメラには犯人が映っていなかったのではない。最初から映るべき犯人が存在していなかった。小木や宇田川の行動をどれだけ追っても答えにたどり着けなかったのは、2人が無関係だったからだけではなく、そもそも殺人事件として考えていたこと自体が間違っていたからだ。
名波が出した「トラック運転手が一方通行を逆走しても警察官に止められなかった」というなぞなぞは、やや唐突ではあったものの、今回の真相を示すものだった。運転手はトラックに乗っておらず、歩いていた。石原もまた、誰かに襲われたのではなく、偶然落ちてきたコンクリート片に当たっていた。
もっとも、殺人ではなかったからといって、何も問題がなかったわけではない。ダンプカーの積載方法や積載量に問題があった可能性は残り、事故を防げなかった責任については調べる必要がある。
ただ、ネットも警察も「石原を殺した人物がいる」という前提で動いた結果、無関係な2人の生活は大きく荒らされた。
犯人を見つける物語だと思っていたら、最後に必要だったのは犯人探しをやめることだった。第3話は、誰がやったのかではなく、本当に誰かがやったのかを疑う回だったのである。
まとめ|ネットも警察も「犯人がいる」と思い込んだ第3話
第3話は、ネット上の無責任な特定が人の生活を壊していく怖さを描いた回だった。
しかし、振り返ってみると、ネットだけが思い込みで走っていたわけではない。警察もまた、小木や宇田川を順番に疑いながら、「石原を殺した犯人がいる」という前提からなかなか抜け出せなかった。
その結果、真相へ近づくために必要だったのは、新しい容疑者を探すことではなく、そもそも殺人事件なのかを疑うことだった。
ネットを批判する構図はやや分かりやす過ぎるものの、最後に警察側まで同じ罠にはまっていたと分かることで、話は少しだけ面白くなる。
そして3話続けて、容疑者が2人並び、最終的に別の答えが出る構成も定着しつつある。今回は犯人すら存在しなかったため、2択クイズの外し方としてはかなり大胆だった。
次回はどんなデジタル捜査が登場するのか。それと同時に、また2人目の容疑者が現れるのかも気になってしまう。事件の真相だけでなく、番組の型まで追いかけたくなる第3話だった。
