WOWOW 連続ドラマW『夜の道標』第5話(最終話)を見てみた、姉です。
全5話で描かれてきた1996年の戸川殺害事件。最終話では、阿久津が事件を起こした背景にあった“優生手術”の真相が明らかになり、阿久津は逮捕、豊子は自首する。さらに平良と息子の関係にも変化が訪れる。
ただ、事件の真相が明らかになった一方で、阿久津や豊子がその後どんな処分を受けたのかは描かれない。以前からそこまで見せてほしいと思っていたので、個人的には少しモヤモヤの残る最終話だった。
ここから一部ネタバレを含みます。
秘密を墓場まで持っていけない母親
阿久津の母親は、息子が離婚した理由が子供を授からなかったことだと知っていた。それでも息子に子供が欲しいのか確認し、「欲しくない」と聞いたことで、中学生の時に不妊手術を受けさせていたことを打ち明ける。
しかし阿久津は、今は子供が欲しいわけではない。でも実和との子供は欲しかった、ということを知り号泣する。
ここでどうしても気になったのが母親。息子に優生手術を受けさせたことについて、周りの人がそう言ったから、みんなやっていると言ったから、戸川先生もそう言ったから、とどこか自分以外の人に責任を押しつけているように聞こえた。
最終的に手術を受けさせることを決めたのは保護者だったはず。もちろん当時の社会や周囲の圧力もあったのだと思う。それでも、自分が良かれと思って決断したこととして息子に向き合うのではなく、「みんなそうしていたから」という感じなのがどうも引っかかった。
しかも、その秘密を息子へ話した当日に阿久津は戸川先生のもとへ行き、事件を起こす。もし息子本人に何も知らせず手術を受けさせたのなら、その秘密を話す覚悟まで含めて考えてほしかった。
母親は、阿久津から「子供は欲しくないから別にいいよ」という言葉でも期待していたのだろうか。見ていてなんとも気分の悪くなる場面だった。
波留の父親に「うまく当たれよ」
豊子から車を借りた阿久津は、波留を迎えに行き日光へ向かう。それを阻止しようとするのが波留の父親。
波留が父親から何度も“当たり屋”をさせられていたことを知っている阿久津は、車で父親にぶつかる。その時に言うのが「うまく当たれよ」という言葉。
波留が車へ飛び出す時、父親から言われていた言葉だった。大怪我をさせるような事故ではないとはいえ、少し胸がすく思いがした。
日光で阿久津の車は警察に囲まれる。そこで波留は、父親から何度も当たり屋をさせられていたこと、阿久津は自分を助けてくれたことを警察の前で話す。ずっと父親に逆らえなかった波留が、ようやく自分から事実を話す。ここはよかった。
ただ、その後波留がどうなったのかは描かれない。父親のもとへ戻るのか、保護されるのか、別の場所で暮らすことになるのか。第2話以降かなり波留の家庭環境を描いてきたので、その後まで少し見せてほしかった。
阿久津は逮捕、豊子は自首
阿久津は日光で逮捕され、豊子は警察署へ行き、自分が阿久津をかくまっていたと自首する。
豊子は阿久津をかくまっている間に、彼が中学生の時に不妊手術を受けさせられていたことも聞いて知っていた。豊子はやっぱり中学生のころから阿久津に少し好意を持っていたらしい。
だからこそ、ここまで見てくると少し気の毒にも思う。
阿久津の思い出にはいつも実和がいる
前回、阿久津は波留に元妻・実和との日光旅行の思い出をたくさん話していた。その中で、実和について「怒らない」という話も出てくる。
それを聞いて、以前、波留に渡した惣菜の容器がなくなった時に阿久津が「容器がないと豊子が怒る」と言っていたのを思い出した。
実和との思い出は楽しそうに何度も話す。でも豊子について、同じような思い出を語ることはほとんどない。2年間も自分をかくまってくれた豊子が、阿久津にとってどんな存在だったのか。最後まで少しわかりにくかった。
豊子が気の毒に思えてしまう。
平良は息子にようやく謝る
平良の息子・孝則は、自分の部屋の窓から飛び降り、大怪我をして入院している。平良はこれまでの自分の態度を振り返り、息子に謝る。
今までちゃんと息子を見てこなかったこと、理解しようとしていなかったこと。頭を下げる父親に、息子も応える。2人で泣く場面になり、どうやら親子関係は少しずつ修復へ向かいそう。
平良は阿久津の気持ちを理解しようと必死になる一方、自分の息子については「ほっとけばいい」と言っていた。最終話では、ようやく自分の家族にも向き合うことができた。
阿久津にとって戸川先生は本当に“夜の道標”だった
取調室で平良は阿久津に、戸川先生がどんな存在だったのかを尋ねる。
阿久津は、中学生の時に補導された自分を戸川先生が警察へ迎えに来てくれた日のことを話す。暗い夜道を2人で自転車で帰った。先生は道を曲がる時、進む方向へ腕を上げて合図した。
阿久津は、その手の指す方向へ行けば間違いないと思ったという。
ここでようやく「ああ、これが『夜の道標』なのか」と思った。暗い場所にいる自分へ、進む方向を示してくれた人。阿久津にとって戸川先生は、文字どおり“道標”だったのだと思う。
それでもなぜ怒りは母親ではなく戸川先生へ向かったのか
阿久津は優生手術のことを知り、戸川先生のところへ確かめに行く。そこで話を聞き、衝動的にブックエンドで殴り、殺してしまう。
道標として信じていた先生。「生まれてこなきゃよかった子供なんていない」というようなことを話していた先生。その先生が、自分の優生手術に関わっていた。その裏切りへの怒りだったのだと思う。
ただ、個人的に最後まで少しわからなかったのが、手術への同意をした母親ではなく、なぜ戸川先生へここまで強い怒りが向いたのかということ。
母親にも当然大きな責任がある。むしろ最終的な決断をしたのは母親だったはず。それでも阿久津にとっては、母親以上に戸川先生を信じていたからこそ、裏切られた衝撃も大きかったということなのだろうか。
阿久津と豊子の判決まで知りたかった
第5話の最後までに、阿久津は逮捕、豊子は自首、波留は父親から当たり屋をさせられていたことを告白、阿久津の母親は事件当日に優生手術のことを息子へ話したと告白、平良は息子へ謝罪、とそれぞれの話にひと区切りつく。
ただ、私が以前から気になっていたことは最後までわからなかった。阿久津はどんな罪に問われ、どんな判決を受けるのか。2年間指名手配犯をかくまった豊子はどんな処分になるのか。
結局、取調べの段階まででドラマは終わる。薄々そんな気もしていたけれど、個人的には少しモヤモヤした。文字だけでもいいので、その後どうなったのか知りたかった。
全5話を見て|暗く重いけれど見応えのあるドラマだった
『夜の道標』は全5話。原作は芦沢央さんの小説。
“社会派ミステリー”というだけあって、緻密で重厚な話の展開で見応えのあるドラマだった。ただ、内容はかなり暗く重い。
見終わって「面白かった!」と爽快に言えるタイプのドラマではない。なんとも言えない気持ちになる。そんな作品だった。
ドラマの中心にあった「優生保護法」も、当時ニュースなどで言葉を聞いたことはあったと思う。でも、どんな法律だったのか詳しく知ることはなかった。
今回このドラマを見たことで、少なくとも「こういう問題が実際に存在していた」ということを知るきっかけにはなった。今の感覚ではちょっと考えられないようなことだけれど、廃止されたのは戦前や戦後すぐではない。それほど遠くない過去まで存在していたのかと思うと、改めて驚く。
キャストが全員よかった
そして、このドラマで最後に一番言いたいのは、キャストのみなさんが本当に良かったということ。
吉岡秀隆さん、野田洋次郎さん、瀧内公美さん、高杉真宙さん、キムラ緑子さん。そして波留や桜介を演じた子役のみなさん。
最近見た日本のドラマで、「出演している人がみんなよかった」と思える作品は久しぶりだった気がする。
緻密で重厚なストーリー。内容はかなり重たい。でも、それを演じきる出演者のみなさんの演技には目を見張るものがあった。
まとめ|モヤモヤは残ったけれど、記憶に残るドラマになった
『夜の道標』最終話では、阿久津が戸川先生を殺した背景と、優生手術をめぐる真実が明らかになった。
阿久津は逮捕、豊子は自首、平良親子にも関係修復の兆しが見える。一方で、阿久津と豊子がその後どんな処分を受けたのか、波留がどうなったのかまでは描かれなかった。そこは個人的には少しモヤモヤが残った。
それでも全5話を通して、かなり見応えのあるドラマだった。人を導く“道標”とは何なのか。善意であれば他人の人生を決めてもいいのか。過去の社会制度によって人生を変えられた人たちは、その後どう生きたのか。
見終わってもいろいろ考えさせられる。暗く重たい作品だったけれど、キャストの演技も含めて、記憶に残るドラマのひとつになった。

