WOWOW「連続ドラマW 東野圭吾『虚ろな十字架』」第1話では、主人公・中原道正が11年前に娘を殺された過去と、その事件をきっかけに別れた元妻・小夜子の死が描かれた。
娘を殺した男には最終的に死刑判決が下されたものの、それで中原夫妻の傷が癒えることはなかった。
この記事では第1話のネタバレを含みながら、愛美殺害事件から蛭川の裁判、中原夫妻が離婚に至るまでの経緯、重苦しい第1話で特に印象に残った点を振り返る。
「天国に行ける」と言えない中原
第1話では、主人公・中原道正の現在と、大部分は過去に起きた悲劇について描かれている。
まずは現在。中原は伯父からペット葬儀サービス会社を継いでいて、特殊な車でペットを亡くした家に出向き、その場で荼毘に付すというシーンから始まる。
猫を亡くした少女が最後のお別れをする時、「天国に行ける?」と母親に聞く。母親は「行けるよ」と答え、中原にも同意を求めるが、中原は何も答えられない。
すると同僚の神田が、ちゃんと天国に行けるから見送ってあげようと機転を利かせる。そして中原は猫をワゴン車の中で荼毘に付す。
仕事が終わった帰り道、中原に清澄警察署から浜岡小夜子が亡くなったと連絡が入る。
ペットを出張して荼毘に付してくれるサービスがあるというのを知らなかったが、葬儀サービスなだけに、もちろん服装は喪服。
娘の質問に母親が助けを求めるように中原を見ても、何も言葉をかけてあげられない。その様子から、過去に何があったのだろう……と不穏な始まりだった。
警察が亡くなったと連絡してきた「浜岡小夜子」は中原の元妻。娘・愛美が殺害された事件をきっかけに離婚したことが後で分かる。
11年前、中原夫妻を襲った悲劇
11年前、中原夫妻の娘・愛美が殺害される事件が起きる。その直前から話は始まる。
愛美は仕事に出かけようとする父・道正に、自分が描いた家族3人で海に行った時の絵を見せる。
道正が「もう少し丁寧に描いたら?」とアドバイスすると、愛美は「もういい」と言って自分の部屋へ行ってしまう。妻・小夜子は自分がフォローしておくと言い、急いでいた道正はそのまま会社へ向かう。
どこにでもありそうな、普通の家族の日常だった。
ところが仕事中に小夜子から電話が入り、道正が急いで自宅に戻ると規制線が張られ、警察が来ていた。
出かけ際に愛美が見せてくれた絵は、この後にも何度か登場する。しかし、この日愛美は事件に巻き込まれ命を落とす。
父親と娘の最後の会話が「もういい」だったというのは、なんとも悲しい。
娘を失った直後に疑われる中原夫妻
道正は杉並西警察署の佐山と共に警察署へ行き、警視庁捜査一課の浅村から話を聞かれる。
事件発生時のアリバイや、最近妻に変わったところはなかったかなど、自分や妻が娘を殺したのではないかと疑うような質問に憤慨する中原。
浅村は捜査として必要なことをしているだけだと答え、佐山が捜査への協力を求めてなだめる。妻の小夜子も別室で話を聞かれていた。
ようやく解放され、警察署で小夜子と落ち合うも、小夜子は憔悴しきっている。
愛美の遺体の第一発見者が母親の小夜子なので、夫の道正も含め家族が疑われるのは仕方ないのかもしれない。
とはいえ、娘を亡くしたばかりで憤慨する道正に、淡々と「すべきことをやっているだけ」と返す捜査一課の浅村の言い方はかなりひどい。佐山が慌ててフォローしていたのも分かる。
「私が一人にしたから」と自分を責める小夜子
小夜子は道正に、何があったのかを話す。
買い物に行こうと声をかけたものの、愛美は家で1人で留守番すると言った。小夜子はインターホンが鳴っても出ないように伝え、鍵を閉めて買い物へ行く。
しかし帰ってくると玄関の鍵は開いていた。家の中は荒らされ、愛美が倒れていた。
愛美は首を絞められて亡くなっていた。
小夜子は、自分が愛美を1人にしたせいだと何度も道正に謝り、泣き崩れる。
ちょっと買い物に行くだけだから、1人で留守番させても大丈夫だろう。インターホンが鳴っても出ないように伝え、鍵もかけた。それでも愛美は殺されてしまった。
あの時一緒に買い物へ連れて行っていれば。1人で留守番させなければ。小夜子の後悔は計り知れない。
しかも愛美は、「インターホンが鳴っても出ない」という小夜子の言いつけをきちんと守っていた。
後に犯人は、インターホンを鳴らしても応答がなかったので留守だと思ったと供述する。それがなんとも痛ましい。
倒れている娘を抱きしめて叫ぶ姿や、何かが壊れてしまったかのように道正へ何度も謝る小夜子。鈴木杏さんの演技が光る。
犯人・蛭川和男はあっさり捕まる
佐山は中原夫妻に、犯人が捕まったことを伝えに行く。
職務質問から逃げようとした男を任意同行し、所持していた1万円札から小夜子の指紋が見つかった。その後の取り調べで男が犯行を自供したという。
犯人は蛭川和男、48歳。
26年前に強盗殺人事件を起こし、無期懲役の判決を受けたが、半年ほど前に仮出所していた。
親族に紹介された廃品回収業者で働いていたものの、2週間ほど前に会社の金を盗もうとして解雇。仮出所が取り消されることを恐れて行方をくらまし、金に困って空き巣目的で中原家に侵入し、今回の凶行に及んだ。
道正も佐山に聞いていたが、「20年以上服役すれば、無期懲役でも仮出所できる可能性がある」という事実は、中原夫妻にとって到底納得できるものではないだろう。
26年前に強盗殺人を起こし、仮出所中には会社の金を盗もうとして解雇され、さらに空き巣目的で侵入して殺人。
26年前の事件で無期懲役ではなく死刑になっていれば、愛美は殺されなかった。中原夫妻がそう考えたとしてもおかしくない。
蛭川の裁判と「死刑」を望む中原夫妻
犯人は捕まり、裁判が始まる。
第一審は無期懲役
冒頭陳述では、蛭川が空き巣に入れそうな家を探していたところ、小夜子が外出する姿を目撃し、インターホンを鳴らしても反応がなかったため留守だと思って侵入したことが語られる。
1人で留守番するという愛美に、小夜子は「ピンポンが鳴っても出ちゃダメよ」と言っていた。
それを愛美が守ったことで蛭川に留守だと思われ、侵入されてしまったのだとしたら辛すぎる。
とはいえ、8歳の愛美がインターホンに応答していたとしても安全だったとは限らないので、なんとも言い難い。
裁判が進む中、小夜子は、もし死刑にならなかったら耐えられないと口にする。道正も当然死刑になると思っていた。
しかし判決は「無期懲役」。
中原夫妻はもちろん納得できない。検察側もすぐに控訴する。
26年前に強盗殺人で無期懲役となり、仮出所中に行方をくらませ、また人を殺しても無期懲役。
もちろん控訴されるのだけれど、気になるのは、またいつか仮出所する可能性があるのかということ。刑務所から出てこない終身刑のようなものではないと怖すぎる。
蛭川の弁護人・平井はかなりの切れ者という印象。「無期懲役」の判決が言い渡された時、蛭川も平井もどこか満足げに見えたのが印象に残る。
控訴審で覆った判決
控訴審を担当する検事は、「犯行は突発的なものだった」という弁護側の主張を崩すため、新たな証拠が必要だと考える。
そこで小夜子も検察側の提案に協力する。
新たな証拠となったのは、小夜子がトイレで愛美の亡骸を抱きしめた際、顔を拭いたハンカチだった。
愛美の顔が涙で濡れていたことから、愛美はトイレの中でしばらく生きていたのではないかと検察側は主張する。
つまり蛭川は、一度愛美をトイレに押し込み、金品を探したあと再び戻って殺害した。それなら衝動的な犯行ではなく、明確な殺意があったことになる。
対する弁護人・平井は、その涙は小夜子自身の涙だった可能性があると反論する。
さらに、愛美の口に入れられていたスポンジボールに付着した唾液の量についても双方が争う。
検察側は、唾液の量から愛美が約10分間トイレ内で生きていたと主張。一方、弁護側は首を絞められた際に通常より多く唾液が分泌された可能性などを挙げ、検察の主張には科学的根拠が乏しいと反論する。
そして判決。
原判決は破棄され、蛭川には死刑が言い渡される。
蛭川はそれを聞き、なぜかうなずく。
中原夫妻はなんとも言えない表情を浮かべ、小夜子の頬には涙が伝う。
蛭川は退廷するため立ち上がるが、呆然として失禁していた。中原夫妻は、蛭川が立ち去るまでじっとその姿を見つめる。
「死刑」を言い渡されて蛭川はなぜかうなずいた。
しかしそれは罪の重さを受け止めて反省しているというより、投げやりなような、諦めのような反応に見えた。
第一審の「無期懲役」から一転して「死刑」。
中原夫妻が望んでいた結果に、ようやくたどり着いた。しかし、それですべてが終わるわけではなかった。
死刑判決が出ても癒えない傷
愛美を殺した蛭川に死刑判決が下っても、中原夫妻の傷はまったく癒えないままだった。
道正は仕事にも行けず、小夜子が仏壇をどうするか尋ねても、「少し落ち着いてから考えよう」と答えてその場を立ち去る。
1人になった小夜子は愛美の写真を見ながら、おもむろに両手で自分の首を絞める。
だんだん顔が赤くなっていく様子が恐ろしい。
その後、2人で朝食を食べている時、小夜子は道正の顔を見るのがつらいと打ち明ける。
それは道正も同じだった。
小夜子は、道正と愛美がいた幸せな頃ばかり思い出してしまうと言う。
道正も、全部が夢だったらよかった、愛美がいたこと自体が夢で、それが覚めただけならどんなに楽だっただろうと口にする。
そして小夜子は実家へ帰ることになり、道正も1人で住み続けるのは嫌だと家を処分することにする。
感情的に責め合うわけでもなく、お互いを思いやる気持ちもある。嫌いになったわけでもない。
それでも愛美を亡くしたことで、お互いの顔を見るだけで幸せだった頃を思い出してしまう。
犯人はすぐに捕まり、時間はかかったものの最終的には死刑判決も出た。それでも被害者家族が負った傷が癒えることはなかった。
11年後、小夜子まで殺害される
ペット葬儀サービス「エンジェルボート」に刑事の佐川と菅野が訪ねて来る。
道正の元妻・浜岡小夜子が、自宅マンション近くの路上で殺害され、遺体で見つかったという。犯人はまだ捕まっていない。
佐川は小夜子と連絡を取っていなかったのか確認する。
道正によると、離婚してから一度も会っておらず、離婚後1年ほどは何度かメールが来たものの、最近はまったく連絡がなかったという。
なぜ連絡を取らなくなったのか尋ねられると、道正は、お互い事件のことを忘れたくて別れたからだと答える。
道正は小夜子の葬儀に参列し、焼香をして、飾られた笑顔の小夜子の写真を見る。
そしてラスト。
1人の男が警察署へ現れ、外にいた警察官に「女を殺した」と告げる。
まとめ|死刑判決でも終わらなかった中原夫妻の悲劇
『虚ろな十字架』第1話は、最初から最後まで重たく暗い雰囲気の話だった。
11年前、中原夫妻の娘・愛美が殺され、犯人には最終的に死刑判決が下る。しかし事件をきっかけに夫婦は離婚。そして現在、今度は長年連絡を取っていなかった元妻・小夜子が殺害されたと道正は知らされる。
一番印象に残ったのは、キャストの良さ。
犯人・蛭川、娘・愛美、刑事・佐川、そして感情をなくしたかのように無表情で言葉の少ない主人公・中原道正。それぞれがドラマの重たい空気にぴったり合っている。
そして圧巻なのは、やはり小夜子。
娘の死によって小夜子の中の何かが壊れていくさま。半狂乱になって泣き叫ぶ時も、無言で心情を表現する時も、穏やかに話している時でさえ、どこか不安定さが残っている。
本当に何かが壊れてしまった人なのだと思わせる、鈴木杏さんの演技が光る。
映像も重苦しい内容にぴったりの雰囲気だった。
ペットの葬儀サービス、裁判、小夜子の葬儀など、全体を通して服装や画面にはモノトーンが多い。
そんな中、殺された娘・愛美が描いたカラフルな海の思い出の絵や子ども部屋が目に留まり、その対比が悲しさを増幅させているように感じた。
11年前に娘を殺され、時が経って今度は別れた元妻まで殺された中原道正。
この先もきっとやりきれない展開になるのだろうなと思いながら、次回を待つ。

